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盛岡地方裁判所 昭和48年(行ワ)1号 決定 1973年5月14日

申立人 岩手県地方労働委員会

右代表者会長 青山金一郎

右指定代理人 榊原孝

<ほか三名>

被申立人 株式会社岩手銀行

右代表者代表取締役 雫石隆孝

右訴訟代理人弁護士 倉地康孝

同 大沢三郎

主文

被申立人は、原告被申立人、被告申立人間の当庁昭和四七年(行ウ)第一〇号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決が確定するまで、申立人が昭和四七年一一月一五日被申立人に対して為した命令のうち、主文第4項(命令内容の一部掲示命令)を除く部分について、申立人の右命令に従わなければならない。

申立人のその余の申立を却下する。

理由

一、本件疎明資料によれば、申立人が被申立人の不当労働行為を認定し、主文掲記の命令を為したことは、一応相当と認められ緊急命令の要否を判断するにつき職権をもって調査する必要を認めるほど重大かつ明白な瑕症は認められない。

なお、命令内容の特定性について付言すると、昭和四〇年度から同四三年度までの各定期昇給時における申立外岩手銀行従業員組合(以下申立外組合という)の組合総数および右各定期昇給時においてより上位に昇給すべきであったのに昇給しなかったとしてその昇給差額金の支払を求めている同組合の組合員の氏名は、申立人の審問手続において、被申立人の了知しているところであり、右の命令主文第1項は、右の員数を基礎として、その記載にかかる基準により、右各定期昇給時における同組合の組合員について再査定し、その査定の結果より上位に昇給すべき者となった組合員のうち、右の定期昇給差額金の支払を求めている者に対して、これを支払うべきことを命じていることが明らかであり、その内容が不明確ないしは具体性を欠くため一義的に確定し得ないものとは言えないし、かつ、申立にかかる請求する救済の範囲を逸脱していないことも明らかである。

また、主文第2項は、その内容が簡略化されているが、これは主文第1項を受けたものであることは、その記載体裁から明らかであって、申立外組合の組合員であった者について昇格の再査定を行ない、遡って昇格の是正をしたうえ、引続き同組合の組合員であった者でかつ昇格の是正に伴う手当等賃金差額の支払を求めている者に対してこれを支払うべきことを命じていることは容易に理解できるところであり、これもその内容が不特定であるとはいえない。

二、緊急命令の必要性の有無の判断基準は、労働者の経済的保護の必要も重要であるが、こればかりでなく、労働者の団結権保護の側面からも判断されなければならず、これは使用者が救済命令を自発的且つ誠実に履行する意思の有無にもかかり、また、少数者の団結権は少数なるが故に強く保障されなければならないものと考えられるところ、本件についてこれをみるに、昭和三五年秋の申立外組合の分裂以降、その組合員数は激減し、これに対応する被申立人の動向、被申立人の同組合に対する姿勢と合せて、被申立人においては、同組合に対する不当労働行為意思を終始否定し、本件救済命令の内容が理解できず実現不可能と主張するなどして、これを自発的且つ誠実に履行する意思のないことを明らかにしている点などからみれば、まさに緊急命令の必要性があるといわざるを得ない。

三、なお、右命令主文第4項は、その余の命令を履行することによって緊急命令の必要性を充足するに至ると認められるので、これにつき緊急命令を発しないのが相当と認める。

よって主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 片岡正彦 裁判官 北澤貞男 奥林潔)

<以下省略>

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